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名古屋高等裁判所 昭和43年(ネ)521号 判決

乙事件控訴人、甲事件・丙事件被控訴人 日比野清秀訴訟承継人(一審原告) 日比野明子

乙事件被控訴人(一審被告) 吉田重治 外一名

甲事件控訴人(一審被告) ヒトミ自動車株式会社

丙事件控訴人(一審被告) 中野定子

主文

一、一審原告の控訴を棄却する。

二、一審原告が当審において拡張した一審被告吉田重治および同吉長自動車有限会社に対する請求を棄却する。

三、一審被告ヒトミ自動車株式会社、同中野定子の控訴をいずれも棄却する。

四、一審被告ヒトミ自動車株式会社、同中野定子の控訴費用は同一審被告らの負担とし、その余の当審における訴訟費用は一審原告の負担とする。

五、原判決添付第一ないし第五目録記載の土地および建物の表示を別紙第一ないし第五目録記載のとおり更正する。

事実

(当事者双方の求める裁判)

一、一審原告

1  一審被告吉田重治、同吉長自動車有限会社に対する請求につき

(一) 原判決を次のとおり変更する。

(二) 一審原告に対し、一審被告吉田重治は別紙第一および第三目録記載の各建物を収去し、同一審被告および一審被告吉長自動車有限会社は各自同第五目録記載の土地を明渡し、かつ昭和四一年二月二三日から右明渡しずみまで一か月につき金三万八四〇〇円の割合による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は第一・二審とも同一審被告らの負担とする。

との判決ならびに右金員支払を求める部分につき仮執行の宣言(当審において、一審被告吉田重治に対し、新たに別紙第三目録記載の建物の収去を求める請求を追加し、同吉長自動車有限会社に対する右建物収去を求める部分を減縮し、右一審被告らに対し明渡を求める土地の範囲をいずれも拡張した。)

2  一審被告ヒトミ自動車株式会社、同中野定子の各控訴につき、主文第三項と同旨の判決

二、一審被告吉田重治、同吉長自動車有限会社

主文第一・二項および同第四項後段と同旨の判決

三、一審被告ヒトミ自動車株式会社

(一)  原判決中、同一審被告会社敗訴部分を取り消す。

(二)  一審原告の同一審被告会社に対する請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は第一・二審とも一審原告の負担とする。

との判決

四、一審被告中野定子

(一)  原判決中、同一審被告に関する部分を取り消す。

(二)  一審原告の同一審被告に対する請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は第一・二審とも一審原告の負担とする。

との判決

(当事者双方の主張)

当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。

一、一審原告

1  別紙第五目録記載の土地(以下「本件土地」という)は、もと名古屋市昭和区東郊通七丁目一六番宅地六六七・七六平方メートル(二〇二坪)であつたが、名古屋市都市計画事業復興土地区画整理事業施行者名古屋市長により昭和二四年六月ころ仮換地として昭和二工区六Aブロツク三番宅地四九四・七四平方メートル(一四九・六六坪)が指定(原地換地)され、同四七年七月三一日付で一審原告であつた日比野清秀に対し本件土地を換地と定める旨の換地処分がなされ、同処分は同年八月一日その旨の公告がなされたことにより確定した。

2  一審被告吉田重治の本件土地につき賃借権を有する旨の主張は否認する。

本件土地の使用状況の推移を見ると、本件土地はもと訴外西村義太郎の所有であつたところ、右土地の南側隣接地に居住し自動車塗装業を営んでいた訴外成田政春が昭和六年ころから、これを借り受け野外作業場として右営業のため使用していたものであるが、その後自動車修理業を営むべくその用地を物色していた一審被告吉田からの懇請により、同一審被告の右営業との関連等を考慮し、同一審被告の申出を容れ、右土地を共同使用することとなつたものである。同一審被告はその後右土地の東北部にトタン葺作業所(四坪)を、次いでこれに隣接して事務所(四坪)を建築し右土地を営業の用に供していたものの、当時は戦時中で異常な環境のもとにあり、政春との間に契約関係の成立した形跡もなく、ただ二〇二坪に及ぶ空地を互に使用区域を定めず野外作業所として共用していたにすぎないのであるから、これを目して賃貸借というのは相当でない。そして、終戦後本件土地は土地区画整理の対象となり、仮換地指定により前記のとおり四九四・七四平方メートル(一四九・六六坪)に減歩され、昭和二四年ころ政春が本件土地(従前の土地)を買受けたのであるが、これと前後して同一審被告において政春の承諾のもとに本件土地の東部に別紙第一目録記載の工場を建築したことにより、同建物の敷地である四二坪につきはじめて同一審被告の専用が容認されるにいたつたのであり、これに前記作業所および事務所の建物敷地合計八坪を併せても、同一審被告の専用区域は本件土地のうち約五〇坪にすぎなかつたものというべきである。同一審被告は、本件土地(当時仮換地。以下同じ。)の賃料は一か月一五〇〇円であり、これを政春が同一審被告方の電話および水道を利用する料金相当額と相殺する約定であつた旨主張するが、政春の居住建物には水道の設備があり、それ以外の水道の使用は仕事の後に手足を洗う程度であり、一日に一回か二回使用するにすぎない電話料金も僅かな金額であつて、常識上からみても、同一審被告主張の賃料支払方法を約定することはありえないのである。

3  仮に、一審被告吉田が本件土地につき賃借権を有するにしても、同一審被告の賃借権は、前記作業所および事務所敷地八坪に別紙第一目録記載の工場の敷地四二坪を併せた五〇坪を対象とし、賃料一か月二五〇円の約定で締結された第一次賃貸借と、その後これと別個に政春の自動車塗装業が不振となつたため賃料の増収を図るべく本件土地西側の一〇〇坪を対象とし賃料一か月一二五〇円の約定で締結された第二次賃貸借との二個の契約から成るのであるところ、右第一次賃借権が一審原告に対抗しうべきものであるとしても、右第二次賃借権はこれを一審原告に対抗しえないものというべきである。

4  仮に、一審被告吉田が訴外成田政春から本件土地を賃借していたとしても、右賃借権は、なお次の理由により一審原告に対抗しえないものである。すなわち、訴外政春は訴外西村義太郎から本件土地を買受けた際、訴外成田一男(政春の養子)にその所有権を取得させる意思がないのに営業上、納税上の思惑から一男名義に所有権取得登記をなしたものであるが、かかる場合には、民法九四条二項の類推適用により、政春は一男が右土地の所有者でないことをもつて善意の第三者である一審原告に対抗することができず、その反面政春自身は自己が本件土地の所有者であることを主張しえないものである。すなわち、一審被告吉田主張の賃貸借は右土地の所有者とはいえない政春との間に締結されたものであるから、右一男から片山喜一郎を経て競落により本件土地を取得した亡日比野清秀および一審原告に対抗しえないものである。

5  仮に、一審被告吉田主張の賃借権が一審原告に対抗しうるものであるとしても、同一審被告には本件土地の賃借人として次のとおりの債務不履行があるから、一審原告はこれを理由として右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をする。

(一) 一審被告吉田の本件土地を賃借した範囲がその全部に及ぶものであるとしても、同一審被告は右借地上に建物を建築するには土地所有者の承諾をえなければならない義務があるのにかかわらず、右承諾をえないで別紙第三目録記載の建物を建築し、次いでこれを改築した。

(二) 同一審被告は、土地所有者の承諾をえないで、一審被告ヒトミ自動車株式会社が別紙第四目録記載の建物を、原審相被告坂増吉が同第二目録記載の建物をそれぞれ本件土地上に建築することを許容したものであり、右はいわゆる無断転貸に相当する背信的行為というべきである。

(三) 仮に、右一審被告らの右各建物の建築が、一審被告吉田の承認にもとづくものでないとしても、同一審被告としては、第三者が自己の借地上に無断建築をしていたのであるから、速かに、かかる事態を土地所有者である訴外成田一男ないし片山喜一郎に対し通報するなどの適切な措置を講ずべき義務があるのにかかわらず、同一審被告はこれを怠り、右各建物の建築を黙認し、傍観したまま現在にいたつているのであり、右は同一審被告の債務不履行というべきである。

(四) 一審被告吉田は、本件土地の所有者の承諾がないのに、一審被告吉長自動車有限会社をして右土地上に別紙第三目録記載の建物を建築させたものであり、これが右土地の一部無断転貸となることはいうまでもない。

6  仮に、一審被告吉田、同ヒトミ自動車株式会社および原審相被告坂増吉の主張する賃借権が存在したとしても、本件土地については前記のとおり昭和四七年七月三一日付で一審原告であつた日比野清秀に対し右土地をもつて換地と定める旨の換地処分がなされ、同処分は同年八月一日その旨の公告がなされたことにより確定したものであるところ、およそ土地区画整理事業施行地区内の土地(従前の土地)を賃借する者は、それが未登記のものであるかぎり、土地区画整理法八五条一項によりその権利の申告をしたうえ同法九八条の指定を受けないときは換地について使用収益ができないものと解すべきであるから、右一審被告らが右権利の申告をなさず、従つて、同法九八条による指定も受けないまま右のとおり換地処分が確定した現在においては、右一審被告らはその主張の賃借権にもとづき右土地を使用収益する権限を有しないのである。

7  一審原告は、原審において、別紙第三目録記載の建物が一審被告吉長自動車有限会社の所有に属するものであると主張していたが、同一審被告会社および一審被告吉田の当審における主張により、右建物が一審被告吉田の所有であることが判明した。また同一審被告は本件土地の全部につき占有権限がある旨主張し、右一審被告会社も同趣旨の主張をしている。しかしながら、一審被告吉田の賃借権の主張は前記のとおり、失当であり、右一審被告会社は、右土地について一審原告に対抗しうる何らの権限も有しないのに、右建物および同第一目録記載の建物を使用して営業を継続し、右土地を占有使用しているのである。そこで一審原告は、当審において、右一審被告両名に対する請求の趣旨を前記のとおり変更する。

8  原判決添付第一ないし第五目録記載の土地・建物の表示は、本件土地についての前記換地処分に伴い別紙第一ないし第五目録記載のとおり変更され、そのうち、原判決添付第四目録記載の建物は、原審判決後の昭和四三年七月二九日別紙第四目録記載のとおりの所有権保存登記がなされた。

9  一審原告日比野清秀は昭和四七年九月一一日死亡し、右清秀の妻およびその子五名が右清秀を相続したが、右相続人全員による遺産分割協議により右清秀の二女である日比野明子が本件土地を取得し、かつ右土地につきその旨の相続登記を経由したので、同人において一審原告日比野清秀の提起した本件訴訟を承継した。

二、一審被告吉田重治および同吉長自動車有限会社

1  一審原告の主張1の事実は認める。

2  一審原告の2および3の主張は争う。

3  一審原告の4の主張は争う。

一審被告吉田の有する賃借権は、競落により本件土地を取得し、昭和四一年二月二三日これにもとづく所有権移転登記を受けた亡日比野清秀に対抗しうるものである。すなわち、同一審被告は訴外成田政春から本件土地を賃借したものであり、政春が同二四年一二月二〇日本件土地を買受け、同二六年九月六日養子成田一男名義をもつて売主より所有権移転登記を経由するまでの間は同一審被告と右政春との間の賃貸借であることが明らかである。右移転登記により政春から一男に所有権が移転したか否かは別論としても、一男は政春が同一審被告から右土地買受資金として一〇万円を借受けるに際し、これに立会い右領収証を作成したほどであつて、同一審被告との間に賃貸借契約の存在することを承知しているものであるが、右土地につき前記のとおり自己名義の所有権移転登記を経由した後も同一審被告の右土地の使用につき異議を申出ることなく、同一審被告との間の賃貸借関係を承継し、賃料も必要に応じ養父政春の収入としていたものであり、同三〇年二月九日政春が死亡した後は自ら右土地の賃貸人としての権利を行使していたのである。以上のとおり、右日比野清秀が競落により右土地の所有権を取得した当時には、すでに政春が死亡し、一男において一審被告吉田と政春との間の賃貸借契約を承継していたものである。仮に、一男が右土地の登記簿上の所有名義を有するにすぎず、実体上の所有権を取得していなかつたとしても、同人は政春の死亡により同人の賃貸人としての地位を相続承継したものである。

4  一審原告の5の主張はいずれも争う。

一審原告は、本件土地の賃借人である一審被告吉田は右借地上に建物を建築するには土地所有者の承諾をえなければならない義務がある旨主張するが、一審被告は、建物を所有し、自動車修理業を経営する目的をもつて右土地を賃借したものであり、しかも借地上に建物を新築し、またはこれを改築することに関しては何らの特約も存しないのであるから、一審被告は右賃貸借契約の趣旨に反しないかぎり右借地上に建物を新築し、またはこれを改築しうるものである。

また、一審原告は、一審被告吉田が、同吉長自動車有限会社をして本件土地上に別紙第三目録記載の建物を建築させた旨主張するが、右建物は一審被告吉田において建築所有するものであつて、一審被告会社の所有に属するものではないのである。

5  一審原告の6の主張について

本件土地につき、一審原告主張の換地処分がなされ、これが確定したこと、および一審被告吉田が右換地処分にいたるまでの間、一審被告主張の従前土地の借地権につき施行者である名古屋市長に対し土地区画整理法八五条にもとづく権利の申告をしていないこと、従つて、一審原告主張の仮換地につき施行者から使用収益すべき部分の指定を受けていなかつたことはいずれも認める。

しかしながら、同法八五条の規定は、同条一項の規定により申告しなければならない権利でその申告のないものについては、その申告がないかぎり、これを存しないものとみなして、同法三章二節から六節までの規定による処分または決定をすることができる権能を施行者に与えたにすぎないのであつて、本換地について、従前の土地に存した私人間の権利を消滅させる趣旨ではないのである。しかして、同法一〇四条一項前段の規定によれば、換地処分があつた旨の公告があつた場合においては、換地は、その公告があつた日の翌日から従前の宅地とみなされるのであるから、従前の土地に存した借地権は、すべて本換地に移行するものと解すべきである。

6  一審原告主張の7の事実のうち、一審被告吉田が別紙第一および第三目録記載の建物を所有し、本件土地を占有していることは認めるが、その余は争う。

7  一審原告主張の8の事実は認める。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一、一審原告の本件土地所有権の取得について

1  まず、本件土地がもと訴外西村義太郎の所有に属するものであつたこと、日比野清秀が名古屋地方裁判所昭和三四年(ケ)第一六七号不動産競売事件において、同三五年七月六日右土地を競落し、同日付競落許可決定にもとづき同四一年二月二三日右土地の所有権移転登記を経由したことはいずれも当事者間に争いがない(ただし、一審被告ヒトミ自動車株式会社は、以上の事実につき明らかに争わないから、これを自白したものとみなされる)。

しかして、成立に争いのない甲第七号証、第一二号証、乙第八号証、第一〇号証、丙第三号証、第四号証の三、四、および原審証人吉田ハルヱ、当審証人成田一男の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次のとおりの事実が認められる。

訴外成田政春は、古くから本件土地の南側隣接地に居住し、自動車塗装業を営んでいたものであり、昭和二四年一二月二〇日訴外西村義太郎からその所有の本件土地(従前の土地)を代金二〇万二〇〇〇円で買受けたが、自己の名義に登記すると債権者から執行を受ける恐れがあつたので、当時未成年であつた養子訴外成田一男名義をもつて同二六年九月六日受付、同月五日売買を原因とする訴外西村からの所有権移転登記を経由した。その後、政春と一男との間に不和を生じ、右土地所有権の帰属についても意見が対立したため、政春は同二七年名古屋地方裁判所に右土地につき仮登記仮処分命令の申請をし、同年四月二日同裁判所から右命令をえて同月八日受付をもつて同人のため所有権移転の仮登記をした。しかるに、政春が同三〇年二月九日死亡するや、一男は政春の遺言執行者岡田介一に無断で政春名義の右仮登記にかかる権利放棄書等所要書類を作成し、同三一年四月一一日受付、同日放棄を原因とする右仮登記抹消登記手続をしたうえ、訴外片山喜一郎に対し右土地を売渡し、同日受付、同日売買を原因とする所有権移転登記をした。右片山は、同年八月一一日訴外片山宗次から一五〇万円を借受け、これを担保するため同月一三日受付で右土地につき同人を抵当権者とする債権額一五〇万円の抵当権設定登記をし、次いで、同年一二月一七日受付をもつて、右債権額を同月一三日一部弁済により一〇〇万円に変更する旨の登記をした。

ところで、日比野清秀は、同年一二月一三日訴外片山宗次から右抵当権をその被担保債権とともに譲渡を受け、同月一七日受付をもつて右抵当権移転登記を経由したものであるが、右抵当権にもとづき前記競売申立をなし、同裁判所の昭和三四年六月三〇日付競売開始決定による前記競売手続において前記のとおり同三五年七月六日右土地を自ら競落し、同日付競落許可決定により同四一年二月二三日右土地の所有権移転登記を経由したものである。しかして、右日比野は、訴外片山宗次から右抵当権の譲渡を受けた当時、訴外西村から同成田一男への前記所有権移転登記が実体関係に合致しない仮装登記であることおよび政春を権利者とする前記仮登記の抹消登記手続が前記のように不法になされたものであることをいずれも知らず、当時右土地登記簿上に存した記載を信頼して右抵当権の譲渡を受けたものである。

以上の事実が認められ、右認定に反する当審証人成田一男の証言は前記各証拠と対比して措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

しかして、右認定の事実によれば、訴外成田政春は訴外西村から本件土地を買受けた後養子一男にその所有権を移転する意思がないのに同人の名義をもつて訴外西村からの所有権移転登記を経由したというのであり、右登記をなすについて一男の承諾がなかつたとしても、民法九四条二項の類推適用により、政春は一男が右土地の所有権を取得しなかつたことをもつて善意の第三者に対抗することができないものと解すべきである。しかるところ、片山喜一郎は、一男から右土地を買受け、その旨の移転登記を経由した後、訴外片山宗次に対する債務につき右土地に抵当権を設定し、日比野清秀は右抵当権の譲渡を受けたものであるが、その当時訴外西村から一男ヘの右所有権移転登記が仮装登記であることを知らず、右土地の登記簿上の記載を信頼して右抵当権を取得したものであるから、右仮装登記につき法律上利害関係を有するにいたつた善意の第三者に該当し、政春は一男が右土地の所有権を取得しなかつたことをもつて日比野清秀に対抗することができない。従つて右仮装登記によつて表示された権利の外観を前提とする日比野の右抵当権の取得は有効なものというべきである。

しかして、日比野清秀がその取得した右抵当権にもとづく前記競売手続において自ら本件土地を競落したことは前記のとおりであるから、右土地の所有権はこれにより同人に帰属するにいたつたことが明らかである。

2  ところで、本件土地は、もと名古屋市昭和区東郊通七丁目一六番宅地六六七・七六平方メートル(二〇二坪)であつたが、名古屋市都市計画事業復興土地区画整理事業施行者たる名古屋市長により昭和二四年六月ころ、仮換地として昭和二工区六Aブロツク三番宅地四九四・七四平方メートル(一四九・六六坪)が指定され、同四七年七月三一日付で日比野清秀に対し本件土地を換地と定める旨の換地処分がなされ、同処分は同年八月一日その旨の公告がなされたことにより確定したことは、一審被告吉田重治および同吉長自動車有限会社との間において、争いのないところであり、その余の一審被告らは明らかに争わないから、右事実を自白したものとみなされる。

3  また、一審原告であつた日比野清秀が昭和四七年九月一一日死亡し、右清秀の妻およびその子五名が右清秀を相続したが、右相続人全員による遺産分割協議により右清秀の二女である日比野明子が本件土地を取得し、かつ右土地につきその旨の相続登記を経由したことは、一審被告らの明らかに争わないところであるから、いずれもこれを自白したものとみなされる。

二、一審被告吉田重治に対する請求について

1  一審被告吉田重治が別紙第一および第三目録記載の建物を所有し、本件土地を占有していることは同一審被告との間において争いがない。

2  成立に争いのない乙第二号証、第九、第一〇号証、第一二号証の一、二、丙第四号証の三、原本の存在およびその成立に争いのない甲第三号証の一、乙第一三号証、原審証人吉田ハルヱの証言により真正に成立したものと認められる同第七号証、第一一号証、原審証人曾布川貞治、同高野正春、同吉田ハルヱ、同野口ふさゑ、当審証人成田一男の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

本件土地は、その南側隣接地に居住し、自動車塗装業を営んでいた訴外成田政春が、昭和七年ころ右土地所有者である訴外西村義太郎から賃借し、車両置場として使用していたものである。一審被告吉田重治は、昭和一六年ころ、その兄吉田与一とともに政春から右土地を賃料一か月二五〇円の約定で転借し、「吉長兄弟サービス」なる名称で自動車修理業を始めたが、当時右土地は北側に政春所有の鶏小屋(約一坪)が存したほか空地であり、同一審被告らと政春とがこれを野天作業場として共同で使用していた。同一審被告らは同一七年ころにいたり、右土地北側に木造トタン葺作業場(建坪約四坪)を建築し、次いで同二〇年ころ、その西側に隣接して木造板葺平家建事務所(同約四坪)を建築した。同二二年ころ右与一が右営業に関する権利をすべて同一審被告に譲渡し、同一審被告の単独営業となつたが、同一審被告の営業規模が拡張されるに伴い本件土地の使用範囲もその全域におよぶようになつた。他方政春の前記営業は次第に不振となり、右土地の使用も一か月に一〇台分程度にすぎなくなつたので、同年三月ころからは同一審被告の賃料は右使用の割合を参酌して一か月一〇〇〇円に増額されるにいたつた。そして、前認定のとおり政春は同二四年一二月二〇日訴外西村から右土地を代金二〇万二〇〇〇円で買受けたのであるが、当時営業不振のため右買受資金に窮し、その大半を同二六年三月ころまでの分割支払としてもらつたうえ、なお一〇万円は同一審被告から借受けて漸くこれを調達することができた。政春は同二四年一二月一五日ころ同一審被告から右金員の貸付を受けるに際し、右土地全部を同一審被告に対し改めて建物所有の目的で期限の定めなく賃料一か月一五〇〇円の約定で賃貸することとし、右賃料の支払については、政春において自己の営業のため同一審被告の電話および水道設備を借用する必要があつたところから、右料金に相当する金額と対当額で相殺し、残額を政春に対して支払う旨の約定をした。なお、同一審被告から借受けた一〇万円については、その返還期限を定めず、かつ利息を附さないが、同一審被告が廃業するときは、即時その返還を受け、他方政春が廃業するときは、同一審被告において政春の右土地取得代金と同額の代金で右土地を買受ける旨約定した。

その後、同一審被告は昭和二四年六月ころ前記仮換地指定(原地換地)により本件土地の西側の道路に面した部分五〇坪余りが削減されたため前記事務所を撤去し、これに代えて同二五年頃右土地の東側部分約四二坪の地上に木造スレート葺平家建工場(別紙第一目録記載の建物)を建築し、同二七年四月二日その保存登記を経由した。

ところで、政春は昭和二六年三月本件土地代金の最終分割金を支払い、同年九月六日前記理由から成田一男名義に所有権移転登記を経由したのであるが、同年暮ころ前記自動車塗装業の経営不振に加え、妻および養子一男ら家族との間に不和を生じたため、右経営を放擲して家出し、同二八年ころには妻子の居住する建物すら他に売却処分するにいたつた。しかし、政春の右営業は同人の家出直後は妻そうが、同二九年五月からは同人の養子一男が順次これを承継し、右のように政春に居宅を処分されてしまつた後は、本件土地上の政春の事務所兼作業場に引移り、同人の死亡後同三一年四月一一日一男において右土地を訴外片山に売却するまでの間、一男が右営業を継続していたのである。そして、一審被告吉田の前記賃料は、政春が右営業を放擲するまでは同人に対し支払われていたが、その後は一男に対し、同人が本件土地を売却するまで、政春のした取り極めとおり電話および水道料金を差引いた残額がさしたる遅滞もなく支払われ、これに対し一男は、同一審被告と政春との間において右土地賃貸借契約が締結された経緯を知悉しながら、右賃料を異議なく受領してきたものである。

なお、同一審被告は、昭和三一年五月分以後の賃料につき、まず、政春の遺言執行者訴外岡田介一に対して支払をしようとしたが受領を拒絶されたため、同人に対し昭和三一年五月分以降同四一年一月分まで一か月一五〇〇円の割合による合計一七万五五〇〇円を供託し、次いで、同年二月二三日本件土地につき前記競落による所有権移転登記を経由した日比野清秀に対し、同四一年二月分以降同四五年八月分までの右と同額の割合による合計八万二五〇〇円を供託した。

以上の事実が認められ、右認定に反する成立に争いのない甲第五号証、原本の存在およびその成立に争いのない同第三号証の二の各記載および当審証人成田一男の証言は前記各証拠と対比して措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によれば、一審被告吉田重治は、訴外成田政春との間に昭和二四年一二月一五日締結した前記賃貸借契約にもとづいて別紙第一目録記載の建物を建築し、かつ右建物につき同二七年四月二日同被告名義をもつて保存登記を経由したものであるところ、これより先所有者たる政春から、同二六年九月六日本件土地につき所有権移転登記(仮装登記)を受けた訴外一男においては右移転登記後に右保存登記を経由した同一審被告の右賃貸借契約にもとづく賃借権を承認し、その賃料を異議なく受領してきたのであるから、右仮装登記の外形を信頼し、すなわち、一男が右土地の真実の所有者であることを前提として本件土地の所有権を取得した日比野清秀ひいて一審原告に対しても同一審被告は右賃借権をもつて対抗することができるものと解するのが相当である。

3  一審原告の賃貸借契約解除の主張について

(一)  一審原告は、一審被告吉田重治は本件土地の賃借人として右借地上に建物を建築するには土地所有者の承諾をえなければならない義務があるのにかかわらず、その承諾をえないで別紙第三目録記載の建物を建築し、次いでこれを改築したのであるから、右は同一審被告の債務不履行であると主張する。そして、右建物が同一審被告の所有に属するものであることは同一審被告との間において争いのないところである。

しかしながら、同一審被告が建物を所有し、自動車修理業を経営する目的をもつて右土地を賃借したものであることは前認定のとおりであるから、右賃貸借契約の趣旨に反しないかぎり、賃貸人の承諾を要しないで、右借地上に建物を増築し、またはこれを改築することができるものであるところ、一審原告主張の右建物の種類(車庫)、構造、規模等によれば、右建物の建築、改築が前記契約の趣旨に反する行為であるとは考えられない。一審原告の右主張はそれ自体失当で採用することができない。

(二)  次に、一審原告は、同一審被告は本件土地所有者の承諾をえないで、一審被告ヒトミ自動車株式会社が別紙第四目録記載の建物を、原審相被告坂増吉が同第二目録記載の建物をそれぞれ本件土地上に建築することを許容したものであり、右はいわゆる無断転貸に相当する背信的行為というべきであると主張する。そして、本件土地上に存する別紙第四目録記載の建物については、一審被告ヒトミ自動車株式会社名義をもつて昭和四三年七月二九日受付の保存登記がなされており、また、同第二目録記載の建物については、原審相被告坂増吉名義をもつて同三六年九月四日受付の保存登記がなされていることは、成立に争いのない甲第八、第九号証により明らかであり、右一審被告らがいずれも本件土地の上に右建物を建築し、これを所有していることが推認できる。

しかしながら、右各建物の建築につき、一審被告吉田重治がこれを許容していた事実は、本件におけるあらゆる証拠によるもこれを認めるに足りない。かえつて、原審における一審被告中野定子本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる丙第六号証、原審における一審被告ヒトミ自動車株式会社代表者人見繁治尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる丁第一号証、第二号証の一、二によれば、別紙第二目録記載の建物の敷地部分は、一審被告中野定子の夫である訴外中野嘉四郎が昭和三四年三月二七日訴外成田政春の遺言執行者岡田介一から借受け、その頃同一審被告の兄である原審相被告坂増吉をして右建物を建築所有させたものであり、また、同第四目録記載の建物の敷地部分は、一審被告ヒトミ自動車株式会社の代表取締役人見繁治が同三四年六月三〇日前記岡田介一から借受け、その頃同一審被告をして右建物を建築所有させたものであつて、右各建物の建築およびその敷地の使用については一審被告吉田重治は全く関知していないことが認められるのである。従つて、一審原告の右主張は採用することができない。

(三)  一審原告は、次に、一審被告吉田重治は、同ヒトミ自動車株式会社および原審相被告坂増吉が前記のとおり自己の借地上に無断建築をしていたのであるから、速かに、かかる事態を本件土地の所有者に対し通報をするなど適切な措置を講ずべき義務があるにかかわらず、一審被告吉田はこれを怠り、右各建物の建築を黙認していたのであるから、右は同一審被告の債務不履行というべきであると主張する。

賃借人は、善良なる管理者の注意をもつて目的物を保管する義務を負うものであり、賃借物につき第三者が権利主張をなす場合には、賃貸人をして適切な防禦手段を講じさせるため、遅滞なくこれを賃貸人に通知する義務(民法六一五条)のあることはいうまでもない。

しかしながら、原本の存在およびその成立に争いのない甲第三号証の一、二ならびに弁論の全趣旨を総合すると、前記一審被告両名において別紙第二および第四目録記載の各建物を建築した昭和三四年当時にいたるまでの間において、本件土地の賃借人である一審被告吉田重治に対し、まず、(1) 訴外成田政春から昭和二七年三月一七日建物収去・土地明渡調停の申立(昭和簡易裁判所・同二七年(ユ)第三二号)がなされ、次いで、(2) 訴外成田一男、同片山喜一郎から同三一年に建物収去・土地明渡請求訴訟(名古屋地方裁判所同年(ワ)第一〇二六号)が提起され、さらに、(3) 同一審被告から訴外成田政春遺言執行者岡田介一に対して同二七年に提起した賃借権存在確認請求訴訟(同裁判所同年(ワ)第六二八号)において右岡田介一から同三七年に建物収去・土地明渡請求反訴(同裁判所同年(ワ)第九〇七号)が提起され(右(3) の訴訟事件の係属したことは当裁判所に顕著な事実である。)、右各事件においては、いずれも本件土地所有権を主張する者から同一審被告の有する前認定の賃借権の存在が争われていたのであり、他方右土地所有権の帰属をめぐつて政春およびその遺言執行者岡田介一と一男および訴外片山喜一郎との間において訴訟沙汰が絶えなかつたことが認められるのであつて、かかる事態のもとにおいては、同一審被告としては、本件土地所有権が何人に帰属するかの判定が困難であつたであろうと推認されるのみならず、賃貸人に対する前記通知義務の前提たる自己の賃借人たる地位自体がすでに賃貸人側から争われていたのであり、これに加えて前記各建物の建築が右岡田介一の許諾にもとづくものであることを考え併せると、一審被告吉田重治が前記通知を怠つたからといつて同一審被告の責に帰すべき賃借人の義務の不履行があつたものと解することは相当でない。一審原告の右主張は採用できない。

(四)  一審原告は、次に、一審被告吉田重治は、本件土地の所有者の承諾がないのに、一審被告吉長自動車有限会社をして右土地上に別紙第三目録記載の建物を建築させ本件土地の一部を無断転貸した旨主張する。

しかし、一審原告は、すでに前記(一)において右建物が一審被告吉田重治の所有である旨主張しているのであつて、その主張自体矛盾しているのみならず、前説示のとおり、右建物は同一審被告において前認定の賃借権にもとづいて建築所有しているものであるから、一審原告主張のような無断転貸は存しない。一審原告の右主張は採用できない。

4  一審原告は、本件土地については、昭和四七年七月三一日付で日比野清秀に対し右土地をもつて換地と定める旨の換地処分がなされ、同処分は同年八月一日その旨の公告がなされたことにより確定したものであるが、一審被告吉田重治は右土地の従前の土地につき存した未登記賃借権について、土地区画整理法八五条一項に定める権利申告をなさず、従つて同法九八条による指定も受けていないのであるから、同一審被告はその主張の賃借権にもとづき本件土地を使用収益する権限を有しないと主張する。

しかして、本件土地に関する仮換地指定、換地処分およびその公告の経過が一審原告主張のとおりであることはさきに認定したとおりであり、一審被告吉田重治が右換地処分の確定にいたるまでの間、同一審被告主張の従前の土地の借地権につき施行者である名古屋市長に対し土地区画整理法八五条一項にもとづく権利の申告をしておらず、従つて右仮換地につき施行者から使用収益すべき部分の指定を受けていないことはいずれも同一審被告の争わないところである。

しかしながら、土地区画整理法にもとづく仮換地指定があつた場合換地処分(従前の土地およびその地上借地権等に対し、位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応した換地および借地権の目的たる換地の部分を指定する処分(同法八九条一項)いわゆる「適応換地処分」をいう。以下同じ。)がなされるまでの間に、従前の土地についての未登記借地権者において、同法八五条一項による権利申告をせず、従つて仮換地につき同法九八条による使用収益部分の指定を受けなかつたため、換地処分の際、換地について右借地権の目的となるべき土地を定められなかつた場合においても、右借地権は消滅することなく、右換地の上に存在するものと解するのが相当である。けだし、区画整理の施行により、地区内の土地の区画形質が変更され整理工事が完了すると、同法八九条一項に掲げられた標準により従前の土地に照応する換地の位置範囲は、施行者によつてなされる換地処分をまつまでもなく、区画整理の本質から客観的には整理後の土地のいずれかに定まつていると解すべきであり、施行者のなす換地処分はこの客観的に定つている換地もしくは借地権の目的たる土地の位置範囲を確認し、宣言するにすぎないものというべきである。そうだとすれば、申告すべき権利を有する者が前記申告をしないときは、同法の手続上その権利が存しないものとして手続が進められるという不利益を受けるのではあるが(同法八五条五項)、換地処分は従前の土地の上に存する権利関係をそのまま換地の上に移すことを内容とするもので、換地処分が行われると、換地はその公告の日の翌日から従前の土地とみなされることになる(同法一〇四条一項)のであるから、従前の土地の上に存する権利は不申告であつても換地処分が効力を生じたことによつて消滅することなく換地上にそのまま移行し、その権利者は換地について従前の土地に有していたと同じ内容の権利を有するにいたるものと解すべきだからである。なお、同法一〇四条二項後段の規定は、関係権利者の同意による換地不指定清算処分(同法九〇条一項)および過少宅地、借地に対する換地不指定清算処分(同法九一条三項、九二条三項)等がなされた場合に関するものと解すべきであるから、前記結論を導くについて何らの妨げとなるものではない。

そして、一審被告吉田重治の有する前認定の借地権は、前記仮換地指定処分後に仮換地について締結された賃貸借契約にもとづくものであるが、かかる借地権も前記説示における従前の土地に存した借地権と同一理由により前認定の換地処分の公告の日の翌日から換地である本件土地に移行したものと解すべきである。また、同一審被告は右仮換地借地権にもとづき仮換地上に建築した別紙第一目録記載の建物について前認定の保存登記を経由しているのであるから、建物保護ニ関スル法律一条により、右借地権をもつて、その後、従前の土地および換地である本件土地を取得した日比野清秀および一審原告に対抗することができることは明らかである。

一審原告の右主張は採用することができない。

5  以上のとおり、一審被告吉田重治は本件土地につき前認定の賃借権をもつて一審原告に対抗することができるものであるから、一審原告の一審被告に対する本訴請求(当審において拡張した請求を含む。)は、失当としてこれを棄却すべきである。

三、一審被告吉長自動車有限会社に対する請求について

1  成立に争いのない甲第一一号証の一ないし七および弁論の全趣旨を総合すると、一審被告吉田重治は、その所有の別紙第一および第三目録記載の建物を同吉長自動車有限会社をして使用させていることおよび同一審被告会社は右各建物を使用するために本件土地を使用していることが認められる。

しかしながら、一審被告吉田重治は、前認定の本件土地の賃借権をもつて一審原告に対抗することができるものであり、右各建物はこれにもとづいて同一審被告の建築所有するものであることは前認定のとおりであるところ、およそ建物所有を目的とする土地の賃貸借においては、借地人は自ら建築した建物の所有者としてこれを使用することができるほか、第三者をして右建物を使用させることもできるこというまでもなく、この場合において右第三者が建物を使用するために必要な限度で、その敷地を通常の方法で使用することは、右賃貸借契約に当然包含されているから、右賃貸借契約が存続する限り、賃貸人から右建物の借主に対し、右土地の明渡を請求することは許されないものというべきである。

2  してみると、一審原告の右一審被告会社に対する本訴請求(当審において拡張した請求を含む。)は、失当としてこれを棄却すべきである。

四、一審被告ヒトミ自動車株式会社に対する請求について

1  同一審被告会社が別紙第四目録記載の建物を所有してその敷地である原判決添付第六目録二記載の土地を占有していることは同一審被告会社の認めるところである。

同一審被告会社は、その代表取締役人見繁治が昭和三四年六月三〇日訴外成田政春の遺言執行者岡田介一または同訴外人から本件土地を買受けた訴外加藤鎌三郎から右土地を賃借したところ、同一審被告会社は右人見繁治から右土地を転借したのであるから、右土地の転借権をもつて一審原告に対抗することができる旨主張する。しかし、仮に、同一審被告会社において右主張の転借権を有するにしても、同一審被告会社が右土地上に存する前記建物につきその登記を有しないことは、その自認するところであり、かつ、他に右転借権をもつて一審原告に対抗しうる事由について主張するところがない(もつとも、成立に争いのない甲第九号証によれば、同一審被告会社は右建物につき昭和四三年七月二九日その所有名義に保存登記をしたことが認められるが、右登記は、前認定のとおり、日比野清秀が本件土地を競落した任意競売手続の原因となつた抵当権の設定登記の日(昭和三一年八月一三日)より後になされたことが明らかであるから、右保存登記の存することをもつて一審原告に対抗しえないものと解すべきである。)から、その余の点についての判断を加えるまでもなく同一審被告会社の右主張は理由がない。

2  しかして、同一審被告会社が前記建物の敷地部分を占有することは同一審被告会社との間に争いがないところ、原審における鑑定人富田豊の鑑定の結果によれば、昭和四一年二月当時における右敷地部分の賃料は一か月三四五〇円であつたことが認められるから、同一審被告会社は一審原告に対し、一審原告が前記競落による所有権移転登記を経由した日である同年二月二三日から右敷地部分の明渡ずみにいたるまで、前記占有によつて一審原告の被むる一か月三四五〇円の割合による賃料相当の損害金の支払義務のあることが明らかである。

3  してみると、一審原告の同一審被告会社に対する本訴請求は、原審において認容した限度において正当として認容すべきであるが、その余は失当としてこれを棄却すべきである。

五、一審被告中野定子に対する請求について

1  原審相被告坂増吉が別紙第二目録記載の建物を所有してその敷地である原判決添付第六目録一記載の土地を占有していること、および一審被告中野定子が右坂増吉から右建物を賃借しこれに居住して右敷地を占有していることは右中野定子との間に争いがない。

ところで、成立に争いのない甲第八号証、原審における一審被告中野定子本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる丙第六号証によれば、右建物の敷地部分は、一審被告中野定子の夫である訴外中野嘉四郎が昭和三四年三月二七日訴外成田政春の遺言執行者岡田介一から賃借し、その頃同一審被告の兄である原審相被告坂増吉をして右建物を建築所有させたものであること、および右建物については右坂増吉名義で同三六年九月四日保存登記がなされていることが認められる。しかして、一審被告中野定子は、右中野嘉四郎または坂増吉の右賃借権は右建物の保存登記があることにより一審原告に対抗しうる旨主張する。しかしながら、右登記は、前認定の日比野清秀が本件土地を競落した任意競売手続の原因となつた抵当権の設定登記の日(昭和三一年八月一三日)より後になされたことが明らかであるところ、抵当権にもとづく任意競売手続においては競落人は抵当権者の有する権限にもとづいて所有権を取得するものであるから、右競落により所有権を取得した第三者に対し、建物保護ニ関スル法律一条により土地賃借人において建物の登記をもつて賃借権を対抗するためには、その登記が抵当権設定登記より先になされたものであることを要すると解すべきである。一審被告中野定子の右主張は採用できない。

2  してみると、一審原告の同一審被告に対する本訴請求は、全部正当としてこれを認容すべきものである。

六、右と同旨に出た原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却すべく、なお、一審原告が当審において拡張した請求はいずれも失当であるから、これまた棄却を免れない。

よつて、民訴法三八四条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

なお、原判決添付第一ないし第五目録記載の土地および建物の表示は、前記換地処分に伴い変更されたので別紙第一ないし第五目録記載のとおり更正する。

(裁判官 宮本聖司 川端浩 新田誠志)

別紙 第一ないし第五目録〈省略〉

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